インフラを、支える人を支える技術を、次の世紀へ。

株式会社ソーシャルデザイン研究所

私たちについて

About Social Design Lab.

CEO

三島 徹也

Tetsuya
Mishima

CTO

前川 宏一

Koichi
Maekawa

ソーシャルデザイン研究所は、長く専門分野で技術と知識を培ってきた二人が、コンクリートインフラの最適化をサポートすることを通して、防災や維持管理コスト低減に貢献したいと、2023年に立ち上げました。ご挨拶に代えて、我々がどのような思いで、どのように貢献していきたいのかを、インタビュースタイルにて自らの言葉で語りました。ご笑覧くださいませ。
なお、ここではダイジェスト版をお届けします。フルバージョンを読んでくださる方はこちらから

聞き手・文:みつばち社 小林奈穂子

Profile

  • 三島徹也(CEO)博士(工学)

    1960年岡山県岡山市生まれ。1983年東京大学土木工学科卒業、新卒で前田建設工業(株)に入社、在職中の1992年に博士(工学)の学位を取得。エンジニアとして、一貫してコンクリートと向き合う。2016年に同社執行役員技術研究所長に就任。その後、執行役員ICI総合センター長、シニアフェローを経て、2023年にソーシャルデザイン研究所を創業。趣味はドライブ、旅行、水泳。

  • 前川宏一(CTO)工学博士

    1957年兵庫県西宮市生まれ。1980年東京大学土木工学科卒業。1985年より2018年まで、専任教員として東京大学大学院工学系研究科に奉職。その間の2年、派遣教員としてアジア工科大学院にて勤務。2018年より横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授。2023年より同大学客員教授。専門はコンクリート工学。趣味は映画鑑賞、旅行。

かつては「ファンタジー」とされた構想

お二人の出会いは?

三島私が新卒で入社した前田建設で、上司が引き合わせてくれました。

前川三島さんと私と、志になにか共通するものを感じてのことだったのかもしれません。二人とも、まだまだ漠然とではありますが、いま、ソーシャルデザイン研究所でやろうとしていることの元となるような考えを抱いていました。しかしそれは、当時口にすると、学術の世界でも、企業の世界でも、ファンタジーとされて、ともすると嘲笑の対象になるようなものだったのですね。

約40年前のお話ですよね。

前川そうですね、80年代の前半でしょうか。東大にあった、当時最先端とされたコンピューターも、言ってみればいまのスマホに負ける程度の性能だったんですよ。まさに隔世の感と言いましょうか。ですから現在の感覚では容易く可能に感じられることが、とんでもなく実現困難だったんですよね。

三島ソーシャルデザイン研究所を起業して、本格的に世に送り出そうとしている技術は、ごく簡単に言うと、現存するコンクリートの構造物を丸ごとサイバー空間に置いて、どのような条件下で何年耐えうるのかをシミュレーションするというものです。現在だと特に専門性のない方でも、「そういうことならなんとなくできそうだ」と思いますよね。

そうですね。

前川当時はファンタジーの域を出ないとされていたんですよ。仮にその考え方でひとつのビルを分析できたとして、コンピューターの能力が低すぎて、気の遠くなるような時間を要するために意味がなくなる。どう実現するかはもちろん、なんらかの形にできたとして、どう使われうる技術になるのかも未知でした。

阪神大震災を機に、形にすべく

いつくらいから、実際に求められる技術になると考えるようになったのですか。

三島95年に阪神大震災が起き、いまのままでは対策が足りないという認識が共有されました。補強も必要だし、新しくつくる際の設計も見直さないといけないと。建造物は、試作品として同じものをつくってテストしてみるということができません。自動車くらいまでなら、衝突時の衝撃を実物でテストできますが、高層ビルを一度つくって揺らすテストをするなど事実上不可能です。別のやり方で品質を確保しなくてはなりません。その必要性を求める機運が、あの震災を機に社会的に大きく高まったんです。

あのときは、盤石だと信じ込んでいた巨大なインフラが、一度の災害であのように損壊する可能性があるという現実を突きつけられました。

三島あの震災でも、建物によって被害の程度に差がありました。新しい設計基準で建てられたものは比較的安全だったんですね。また、古い建物の中にも、その脆弱性を正確に把握して、必要な補強をしていれば持ち堪えられたのに、と悔やまれるものもありました。

前川これは我々が考えてきたことが役に立つのではないかと、いよいよ現実的に考えるようになったんです。それでも、一気に注目を浴びるような構想ではないので、少しずつ、言わば趣味のような感じで研究していこうと考えました。

阪神大震災を機に、お二人の使命感の種が芽吹いたとでも言いましょうか。趣味のようにというのは、本業の傍ら、ということですよね。

前川私は大学におりましたが、これが教育に直結するものではなかったもので、仕事の一環にはできませんでしたからね。

三島起業する12〜13年くらい前からは、私も、プライベートで使える毎週土日にほぼ欠かさず取り組んできました。

DuCOMは皮膚系、COM3は筋肉・骨格系?

そのようにして形にされてきた解析システムが、DuCOM/COM3ですよね。私のような者にもあらましが理解できるよう説明していただくとすると・・・。

前川まず、どちらも我々が専門とするコンクリートの構造物、それも大型のインフラを対象としています。構造物が、どれだけの力にどれだけ耐えうるかを分析するのがCOM3です。人体に例えると、筋肉・骨格系とでも言いましょうか。一方DuCOMは、いわば皮膚系です。ここでいう構造物には、ビルもあれば橋梁やトンネル、ダム、堤防、それに原発等の発電所など、様々なものがありますが、筋肉・骨格系のCOM3は、そうしたものにかかる力、地震のような大きなものはもちろん、橋梁であれば自動車や電車などによる荷重もありますね、それらに対応します。皮膚系のDuCOMは、例えば沿岸での潮だったり、気候が厳しい地域の風雪だったりに晒されて、年月をかけて徐々に傷んでいく事象に対応しています。皮膚系の傷んだ状態が進むと、やがては筋肉・骨格系に影響を及ぼしかねない。そういうのを総合的に分析して予測します。

なるほど。置かれた条件下で、どれだけ長持ちするかを予測する?

前川そうです。つまりは、個別に寿命を測るようなものです。

考えうる多様な条件に鑑みて、その条件下で何年もつかを予測するんですね。

前川寿命を左右する要因は非常にたくさんありますね。簡単に言うと、それら全部を入力した上で、サイバー空間でシミュレーションすることで、寿命を割り出します。

DuCOMとCOM3と、構造物ごとに合う方を選んで分析するのですか。

前川それもできますし、両方を用いるとさらに詳細に精査できるということになります。

いままで同じような解析システムはなかった。

前川ありませんね。

三島世界的に見ても、ないんです。

前川災害対策としての目的も当然ありますが、人口減に伴い財源が減っていくと、インフラの維持がむずかしくなります。補強したり建て直したりする時期を適切に決められれば無駄が出ず、コスト的にも相当なメリットをもたらすことができます。インフラの多くは税金で支えられていますから、国民全体が受益者になれるであろうと。

そこも非常に大きいですよね。

三島その構造物のどこがどう弱いのかまで割り出せますので、あらかじめ設計に反映させることができます。コストの割き方も、それを元にして考えることが可能になって、生産性向上に貢献できるんです。

前川設計する人たちの支援をしたいとずっと思ってきました。設計という仕事は、本来ワクワクする、生産的で夢のある仕事ですよね。大前提として、構造物は安全でなくてはなりませんから、その安全を担保するための力になりたい。DuCOM/COM3で精緻に確認できるようになれば、設計は若い人たちにとって、もっと魅力ある仕事になるのではないかと期待しているのです。過去の事例に基づいてつくられた、「この場合は柱を10本に」などという安全基準にただ従うより、自由度が高まるわけですので。我々は、このシステムを使う人たちを後押しすることで、彼らを通して実社会に貢献したいとの考えでやってきました。

三島インフラをつくる人たちというのは、大手ゼネコンばかりではなく、巨大プロジェクトにおいても、社員10人くらいの建設関係の会社がいくつも入って役割を担っているんですね。そういう人たちにも私たちの持つ技術を使ってほしいんです。それが、日本のインフラを担う人たちの底上げにつながると思うからです。

普及させ、実社会で役立てたい。“活動”を経て起業へ

満を持して起業されたのでしょうが、いつかは、と思われていたのですか。

三島前川先生をはじめとする研究者の方々が生み出したものが、技術的に世界クラスであり、社会に大きな貢献をもたらす可能性を持っているという点には、かねて確信がありました。実用に応えられる目処がついてきたのと、長年企業に身を置いてきた私も、また、大学にいらっしゃる前川先生も、ひとつの区切りを迎えるタイミングが重なったので、私がお誘いしました。

前川これに十分に力を注ぐためには、軸足を移すときだなと、私も思いました。

三島さんがCEO、前川先生はCTOということで、お二人の間の役割分担ははっきりしているのですかね。

三島先生は、根っから技術命の方です。正統派の、正攻法の研究者で、技術をもって貢献することに全力で熱意を注ぐお人です。その素晴らしさを理解している者として、また、DuCOM/COM3の開発に携わったほかの研究者のご尽力に報いるためにも、さらに世に広めるために尽くすのが私の役目であろうと思うに至りました。

前川私は解析システムのね、枠組みやルールはつくりましたよ。でもそのプログラムを修正して、実用に見合うよう高速化したのは三島さんなんですよ。100倍速くなれば100日かかる解析が1日でできるわけで、だから実用に見合う。得意分野が違うので、きれいに役割分担ができるコンビなんですね。

三島さんも、趣味というか、“活動”でしょうかね、10年以上毎週末やってこられたんですね。

三島そうですね、ここ十数年やってきたことはボランティア活動とも言えるかもしれません。つくる作業もですが、起業前から、特にCOM3は一部で試用的に無償で使ってもらっていた経緯がありまして、その際、使いこなしてもらうまでに我々による人的サポートが欠かせないんですね。

お二人がサポートデスク的に?

三島はい。

それはずいぶんなボランティア活動ですね。

三島そのような活動に精一杯で、普及させることまでは手が回りませんでした。普及させるべきとの思いが強かったですし、起業して適正な報酬を得られるようにすれば、私たちの後にも、次の世代にバトンタッチできますよね。

とても大事だと思います。

三島ソーシャルデザイン研究所の業務のメインとなるのは、コンサルティングになろうかと思います。軌道に乗せることができたらもちろん仲間を増やしたいですが、当面は、私たち二人で兼務しながら、着実に役立っていければと思います。

前川コンクリートの歴史は、起源でいうと、九千年とも言われています。しかし現代においてもまだ、やるべきことがあるんですね。それに継続的に取り組むために、今後もやってまいりたいと思います。